入院森田療法

森田の入院療法は、
第1期の臥褥療法、
第2期の軽い作業療法、
第3期の重い作業療法、
第4期の複雑な実際生活
と4期のステップを踏んで行く一種の体験療法です。

第1期:臥褥(がじょく)療法
 入院した患者さんは、まず4日から1週間ほど一人で臥褥(安静にして寝ていること)をすることになります。この間、面会や読書、喫煙その他の気を紛らわすことはすべて禁止となります。
この時期には、神経症の患者さんは、自分の症状や将来の不安などをめぐって煩悶をおこします。
煩悶とは森田によると「欲望または恐怖と、これに対する反対観念との間における精神的葛藤」です。たとえば、不安神経症の患者さんなら、「一人で寝ている間に不安発作が起きて死んでしまうのでないか」という気持ちと「いや自分の症状は精神的なものだと言われているからそんなことはあるはずはない」「でもやはり万が一・・・」というような不安とそれを否定しようとする心が起きて、精神的葛藤におちいります。そして、この煩悶が極に達するときに、苦悩が消え去ることがあります。
森田はこの心理状態を「煩悶即解脱」と名づけましたが、これが森田療法における治癒の原体験となります。

第2期:軽い作業療法
昼間はかならず戸外に出て、自発的に、その場で気づいたこと、目に入ったことなどから仕事に手をつけるようにして行きます。入院森田療法では、そのためにある程度の広さの庭や、治療者や患者が生活する家屋、簡単な作業場などが用意されています。患者さんはこの中で、たとえば庭掃除や、部屋の掃除・整理や、食事を作る手伝いなど自分の気づいたことから手をつけること、その間に身体的な不快感、強迫観念などがおこってもまわりに訴えず、静かにこれを持ちこたえること、また夕食後に1日の日記をつけることなどを指導されます。
この時期にはまだ、労働と言えるようなきつい作業を課すことはせず、むしろ本人の中に起こる活動欲にのって動いて行くようにします。

第3期:重い作業療法
患者の身体の状態に応じて、薪割り、畑仕事、穴掘り、花壇の整備や園芸等の実際の労働に近い作業をやって行きます。
この時期になると患者さんは、自分でも思いがけずいろいろな仕事ができることを発見し、その成果に喜びを感じるようになります。また、症状があっても仕事は続けられることも体験して行きます。

第4期:複雑な実際生活期
その人の実際の生活にもどる準備期であり、院外に必要なものを買いに行ったり、会社に出勤の日取りを確認したり、家に外泊したりと現実の生活にもどりつつ、その変化に順応する訓練をします。
この時期に退院してやって行けるかどうかの不安をいだく患者さんも多くなりますが、その不安をそのままにして、実際の生活に入って行くうちに、症状の変化や、不安に対する自分の態度の変化や、自分の周囲の状況(本人がそう思い込んでいた)の変化を発見していきます。

この入院療法を通して、患者さんは、「臥褥にたえられるだろうか」、
「臥褥があけて、他の患者さんと一緒に生活できるだろうか」、
「こんな作業だけで本当に神経症がなおるのだろうか」、
「退院して、実際の仕事や生活にはいっていけるのだろうか」等々の不安場面を体験し、その中でだんだんと自分の恐怖や不安を克服していく自信を獲得します。また、人によっては、ある時急に症状から自由になり、「夢がさめたようにとらわれがなくなった」という人も出て来ます。

森田正馬は、この治療の要点を「患者をして純な心、自己本来の性情、自分をあざむかない心というものを知らせるように導くことを注意する」と述べています。
純な心とは、善悪、是非の標準を定めてからそれにのっとる「理想主義」ではなく、また自分の気分を満足させる「気分本位」でもなく、自分の感情の事実をそのまま認めてその心から出発し工夫することとしています。

森田療法に関してはこの入院療法が有名ですが、森田自身は「病室が少なくて、できるだけ入院させないで、外来で治療し、治りにくくて仕方のないもののみを入院させる」と述べていて、実際にはかなりの患者さんは、外来治療をしていたことを書き残しています。