強迫観念症

強迫観念症とは強迫観念とそれを回避するための強迫行為とで構成される神経症です。
強迫観念とは、本人にとって不安をひきおこすような考えが頭の中に起こり、ばかばかしいと感じていてもそれを気にせずにいられないような観念です。
さらに、多くの例では、その観念・不安を打ち消すために、強迫行為をくりかえすことが見られます。
以下に、いくつかの具体的な強迫観念症の類型をあげて説明します。

1)不潔恐怖症
たとえば、動物の糞とか、ゴキブリとか、汚いものを見た後で、そのことが頭から離れずに、自分の手や服が汚れているのではないかという観念に思い悩む不潔恐怖症や、
これと関連して自分が伝染病にかかるのを恐れる疾病恐怖症(伝染病恐怖:結核恐怖症、AIDS恐怖症など)はよくみられる強迫観念症です。
患者さんは、この不安を打ち消すために、手洗いをくりかえしたり、服を何度も着替えたりなどの強迫行為をします。重症になると、この強迫行為の時間が長くなり、仕事や家事などの生活にさしつかえる場合もあります。

2)不完全恐怖症
これもよく見られる強迫観念症です。特に仕事と関連して現れる場合が多く、今日した仕事が不完全で人に迷惑をかけたり、問題が起こるのではないかとか、計算があっているか、書類を書き間違えたのではないかなどと何度も見直すなどの症状が多く、そのために、仕事の能率が非常に悪くなります。
また、主婦の場合だと掃除や洗い物など家事に時間がかかったり、入浴が極端に長くなったりすることもあります。
また、ガス栓や戸締りなどの確認がひどくなるとなかなか家を出られずに、仕事や待ち合わせに遅刻するケースもあります。

3)縁起恐怖、涜神(とくしん)恐怖、犯罪・過失恐怖症
自分が罪を犯すのではないかと気にする強迫観念で、心配の対象としては、 自分の過失による現実的な「犯罪」「万引き」「人の心を傷つける」といったものから、「神様を冒涜したのではないか」「神様を汚すような不敬な考えが浮かぶ」「ばちが当たる」といった宗教的なものまでありますが、共通するのは、 自分がある「規範」をおかしてしまうのではないかとの不安です。
そのため「自分はやっていない」ことを頭の中で何回も確認したり、「神様ごめんなさい」といった呪文を自分で決めた回数唱えたりなどの確認行為を自分で作ってしまうケースがまま見られます。
これらの強迫観念症の中で、森田療法の適応となるのは、 森田正馬のいう「神経質」性格をベースに症状が形成されたものです。
この場合、強迫観念の内容そのものは、だれでもいだきうる、安全性の欠如に対する不安です。
その底にあるのは、「もしもこうなったら・・・」とか「だいじょうぶのはずだが、万が一・・・」という「もしもの恐怖」であり、これは人は誰でも普遍的にもっている不安です。
そして、神経質性格の人達は、この不安を観念的に否定しようとして、打ち消し行為をするために、ますますこの不安にとらわれていくのです。この理知的・観念的なとらわれに対して、不安はあるがままにして、まず行動を普通にしていく、という森田療法が効果があるわけです。

逆に森田療法が効果がない強迫観念症や強迫神経症もあります。
それは以下のような場合です。
(1)森田正馬が「意思薄弱性格」と言った、強迫行為をすることに対して葛藤や内省のない性格をベースとする強迫神経症。
(2)精神分裂病などの脳の機能障害をベースとする強迫観念や強迫行為。
(3)強迫観念を打ち消すために、他人に対して(主として家族などの親しい人達に)強迫行為を強制するような人格障害の人達。
これらは森田療法の適応になりませんし、無理に森田療法をやるとかえって症状が悪化する場合もありますので、まず精神科や神経症の専門医の診断が必要となります。

強迫観念症の特徴
【1】強迫観念+強迫行為からなる。
【2】不潔恐怖症、不完全恐怖症、縁起・涜神恐怖症、犯罪・過失恐怖症などが
ある。
【3】「神経質」性格をベースとしていれば森田療法の適応。
【4】「意思薄弱性格」、精神分裂病、人格障害がベースなら森田療法は不適応。