外来森田療法の実際

不安神経症
不安神経症(パニック障害)は、不安発作と予期不安とからなる神経症です。
治療法としては、不安発作(パニック発作)が連続的に出現している初期には、抗不安薬をきちんと服用することが必要となりますが、不安発作がある程度おさまってからも、予期不安のために、生活や行動が制限されてしまう時には、薬物療法よりも、外来森田療法の適応となります。
典型的なケースを使って、実際の治療の説明をしましょう。(尚、プライバシー保護のため実際のケースとは内容を一部変更しています)

【ケース1:40代前半の主婦、めまい、動悸、息切れを主とする不安発作とそのために外出恐怖、電車恐怖となった】
[初診]
インターネットで当院のホームページを見て来院。8年前に不安発作が出現。
めまい、動悸、息切れとそのまま倒れてしまう不安のため、救急車で病院を受診して入院となるが、諸検査で異常は認められず退院となる。その後、買い物中などに、倒れる不安が強く、心療内科を受診、抗不安薬をもらって半年で不安発作は落ちついたが、外出や電車に対する不安は続いていた。
一時薬無しで生活できたが、2か月前に、駅に向かって歩行中にまた不安感が出現し、
近くの家で休ませてもらった。その後も何回か不安が出現し、駅の近くの銀行や郵便局に行けなくなり、電車にも乗れなくなった。
→この方は、「長年やりたかった好きなことを習いたいので、電車に乗って、その会場まで行きたい」「森田療法で、できれば薬を使わずにすむように治りたい」と強く希望されたので、不安神経症と精神交互作用について説明し、次回までに「森田療法のすすめ(高良武久著、白揚社)」を読むことと、自分の症状とそのためにできないこと(回避行動)のリストを書いてくることの2つを約束し、
1~2週間に1回通院することで、外来標準型森田療法を開始しました。

[外来標準型森田療法第1回目]
「森田療法のすすめ」を読み終わり、また症状と回避行動のリストを持参。
それによると、最初に症状が出たときよりも、予期不安・恐怖心が強くなり、「今回症状の起きた駅までの道を歩いて行けない」、「急行電車に乗れない」、「美容院に行けない」などの回避行動が見られた。
→ここで、まず「駅まで歩いて行く」ことを課題とし、もし不安ならそのときには抗不安薬を使ってよいとのサポートをしました。
また、次の面接までの「行動記録」をつけてくることで合意しました。

[外来標準型森田療法第2回目]
「行動記録」を持参。駅の近くの銀行まで歩いていく。
びくびくしながら出発したが、実際には予期したほどの不安・恐怖はおこらずに目的を果たしてくることができた。
その2日後には、習い事のために同じ駅まで歩いて行き、各駅停車ながらも、電車に乗って目的地まで往復してきた。
→「駅まで歩けるようになってから、電車の予期不安も減ってきた」
「昨夜、入浴後に不安になり、就床後も動悸が続いたが、そのままにしていたらいつの間にか寝入ってしまった」と述べるため、不安になったり、あせってもその場の行動を変えないことを確認し、次の面接までに「急行電車に乗って見ること」を2つ目の課題としました。

[外来標準型森田療法第3回目~8回目(終結)]
3回目までに、2度急行電車に乗ってくる。乗車してから発車までにかなり強い不安もおぼえたが逃げずにやり通す。
→4回目以降は、行動記録を症状に関することだけにこだわらず、気のついた事があったら記載してくる形に変更しました。
その中で、若いときにも強迫観念があったが一人で抜けられたことを思い出したり、
自分の不安が夫や習い事の先生との人間関係に影響を受けることに気づいたりしました。
また、自分は人づきあいが上手ではなく、こつこつと地道にやっていくタイプであることもわかり、無理をせずに自然にやって行くことを決めました。服薬せずに日常生活が送れているので、7回目には「次回で治療終了」と伝え、1か月の間をおきました。
その間、一時不安が再出現しましたが、「ここで薬を飲んだらもったいない」と考えて服薬せずに自力で切り抜けました。